東アジア歴史文化研究会のブログ

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横田めぐみさんらは生きている!救出に向け朝鮮総連解散新法を①(東京基督教大教授 西岡力)

東アジア歴史文化研究会


※この記事は月刊正論10月号から転載しました。長文なので二回に分けて掲載します。

前編

〈息をのむような激しい戦いが日朝間で今展開されている。多くの国民からすると、昨年10月、日本代表が平壌を訪問した後、膠着状態が続いているように見えるが、その実態はかなり違う。北朝鮮は今年7月はじめに、拉致を含む特別調査委員会の全ての調査結果を出すことを決めたという情報がある。

しかし、残念ながら今準備されているその内容は、日本が目指す全員一括帰国ではなく、2002年の8人死亡通告の焼き直しになる可能性が高いという。いまこそ、すべての力を結集して、全被害者を一括帰国させよ、それなしには金正恩政権の未来をなくすぞ、というオールジャパンの力を結集した毅然たる交渉が求められている〉

5月1日発売の本誌6月号で私は拉致問題の現状についてこう書いた。

本稿ではその後の展開を報告するとともに、救う会が独自に入手した昨年からの金正恩政権の内部の動きと拉致被害者の最新情報を、差し障りのない範囲でお知らせする。

6月に権力中枢で何があったのか

ご承知の通り、北朝鮮は7月に「調査結果」を出さなかった。特別調査委員会を設置して一年になる7月4日の2日前、7月2日に北京の大使館ルートで「全ての日本人に関する包括的調査を誠実に行ってきたが、今しばらく時間がかる」と連絡してきた。

6月号で報告したように、金正恩政権は日本が総連幹部への捜査を続け、拉致問題を国連に持ち込むことを続けるなら「政府間対話が困難になっている」(4月2日在中北朝鮮大使館からの通知)などと拉致被害者の調査を中断するぞと脅していた。

一方、安倍総理は今年に入ってからの北朝鮮との水面下の協議で、拉致被害者の帰国が最優先という姿勢を堅持して「拉致問題が解決しなければ北朝鮮は未来を描くことが困難だと認識させる」(4月3日、家族会との面会)と繰り返し語ってきた。これを指して私は「気合いと気合いのぶつかり合い」と書いた。

ところが、安倍総理は北朝鮮が報告を延期したことを受けて、遺憾だとしながらも、一年前に緩めた制裁の再発動や、追加制裁の発動を行わず、ただ働きかけを強めるとだけ話している。このままでは未来を描くことが困難だという、自身の発言の実効性が疑われるのではないかと心配される。家族会・救う会・拉致議連は7月22日に開催した緊急国民集会で、被害者一括帰国の期限を切ってそれが実現しない場合、強力な制裁を実施せよと決議したが、安倍総理は7月30日、参議院の平和安全特別委員会で塚田一郎議員の質問に答えて次のように答弁した。

〈制裁は制裁を使うことによっていわば効果を発揮する。かつ制裁を解除していくことによって、カードとして使える。(略)今回、新たな調査が開始した段階において、我々はそのスタートにおいて、国際社会とともに行っているものとは別に一部を解除している訳ですが、確かに制裁を強化せよという声はある訳ですが、やっとつかんだ糸口は離してはならないという観点から、北朝鮮側にしっかりとした誠実な正直な対応を促していくべくさらに努力を続ける考えであります[傍点西岡、以下同]〉。

「やっとつかんだ糸口は離してはならない」ので制裁強化を現段階では行わないと明言している。

一方、金正恩も自分の方から協議を切ることはしない。繰り返し、「誠実にストックホルム合意を履行している」と表明し続けている。8月6日、マレーシアで開催されたASEAN関連外相会議に出席した李洙●(土ヘンに庸、リ・スヨン)北朝鮮外相も岸田外相に「ストックホルム合意に基づき特別調査委員会は調査を誠実に履行している」と語った。

なお、岸田外相は「昨年5月の日朝合意の履行を求めつつ、日本国内の懸念を伝え、一日も早い全ての拉致被害者の帰国を強く求めた」という。やはり6月号拙稿で報告したように、これまで外務省は、「合意の履行」すなわち、調査報告の提出を求めてきた。それでは、あたかも死亡報告でもいいから早く出せと北朝鮮側にいっているように聞こえるから危険だと、家族会・救う会は、「求めるのは報告書ではなく生存者全員の帰国である」という運動方針を今年3月に決め、政府にもそのような交渉をするように繰り返し申し入れしてきた。今回、岸田外相が「一日も早い全ての拉致被害者の帰国を強く求めた」のであれば、我々の運動方針が反映されたことになる。

互いに席を立たずに睨み合い続く

7月以降の構図は、安倍総理は未来を描くことが困難になると脅しながら、追加制裁をかけない、金正恩も対話が出来なくなっていると脅しながら、水面下の対話を続ける。お互いに、昨年から始まった協議を切りたくないのだ。言い換えると、この協議で獲得したいものがお互いに残っているので席を立たないのだ。

安倍政権にとって最優先で採りたいものは、もちろん、拉致問題の解決、すなわち、最低限でも認定未認定にかかわらず全被害者の帰国だ。安倍総理は現在水面下で行われている自身の側近まで使った協議の中身をみて、まだ、金正恩政権が被害者を返す可能性が残っていると判断しているのだろう。それが「糸口は離してはならない」発言の背景だろう。

それでは金正恩は何を狙っているのか。彼にも安倍政権から獲得したいものがある。だから、「未来を描くことが困難」などという主体思想からすると受け入れがたい侮辱の言葉を安倍総理が吐いているにもかかわらず、協議を打ち切らず、また、安倍総理に対する名指しの非難をかなり抑えている。それでいながら、安倍総理が求める全被害者を返すという決断はしていない。また、工作機関が準備してきた偽遺骨などを使って新たな死亡報告を出すことも決断していない。

5月の時点で「調査結果」を出す準備をしていたことは複数の異なる情報源から確認できていたので、6月に新たな方針が決まったと思われる。6月に北朝鮮権力中枢で何があったのか。この間救う会が集めた情報の一部を披露したい。実は、もっと多くの内部情報が集まっている。北朝鮮の権力最高位層は、金正恩に対する忠誠心が極度に落ち、いつ粛清されるか分からないという恐怖の中で、高級情報をカネにかえたいと大多数が考えている。今くらい、北朝鮮に対する情報活動が進めやすい時期はない。

北側が示した5項目情報

6月の報告延期決定に、救う会の情報活動が決定的な影響を与えていたらしい。そのことも合わせてこの間救う会が入手した、複数の情報源から確認が取れたほぼ確実な情報の一部を報告する。

▼金正恩政権は対日協議で、・制裁と法執行を解除させて朝鮮総連を救い出すこと・多額の身代金・安倍訪朝により中国との関係悪化による国際的孤立を解消、などを狙っている。また、被害者を帰国させた場合、・小泉訪朝時のように逆に北朝鮮批判が高まることがないという保証・帰国被害者が金正恩政権の恥部を暴露しないという保証を求めていた。

▼金正恩はこれらを獲得できるのであれば、生存拉致被害者を一部、あるいは全部を帰国させることも検討していた。しかし、7月段階で、誰を返し、誰を残すのかについての最終決済をまだ行っていない。金元弘国家安全保衛部部長は被害者を返すことに積極的であり、党の工作機関は自分たちの秘密が暴露されることをおそれてそれに反対している。

▼・~・を最終的に詰めるためには外務省ルートでは限界がある。特に、6月号で報告した松茸密輸事件に対する総連中枢への捜査が今年3月末から本格化した時点で、外務省では話が通じないとの声が北朝鮮から出ていた。

▼5月に安倍総理の側近と国家安全保衛部の代表がモンゴルで秘密接触を持った。これは、金正恩の信頼を得て、昨年からの対日協議を事実上、主導してきた金元弘国家安全保衛部長と、安倍総理の側近が直接のパイプを持ったことを意味する。このルートで上記、・~・について、具体的な協議が水面下で始まった可能性がある。モンゴル政府の積極的な仲介の動きもそれと一部連動している可能性がある。

▼一方、朝鮮労働党に所属する工作機関(統一戦線事業部、225局など)は金正恩の指令により、被害者の遺骨を偽造する技術開発を行ってきた。救う会が6月に、遺骨偽造技術開発に関する情報を公開して注意を喚起した。それを受けて、横田早紀江さんが公開の席で、外務省に「遺骨など受け取ってこないで欲しい。もしもらってきても家族はそれを受け取らない」と断言した。

これにより、横田めぐみさんらの遺骨を再度偽造して認定被害者の多数が死亡しているという報告を出そうとしていた工作機関の謀略計画が一時的にストップした。

▼また、工作機関は安倍政権が被害者の生存情報をほとんど持っていないと判断していた。昨年の水面下の日朝協議で外務省に、横田めぐみさんと田口八重子さんは死亡しているという偽情報を繰り返し流した。

一方で、残留日本人やそこに含まれる政府認定以外の被害者の存在を強調したり、認定被害者が数人生存していることをほのめかしたりして、攪乱してきた。

▼しかし、救う会は「死亡」とされた拉致被害者の生存情報を収集している。複数の異なる情報源が生存を確認しているのでそれらの情報の確度は高い。2006年の第一次安倍政権以来、約10年間、予算と人材をつぎ込んで情報収集活動をしてきた政府拉致問題対策本部事務局は、当然、かなりの生存情報を持っているはずだ。

以上の経緯を踏まえて、金正恩は、7月はじめに予定していた調査結果報告を延期した。

以上は複数の情報源から救う会が入手した情報だ。最後に現状について、希望的な分析を紹介する。水面下の交渉の中身については、極少数の交渉当事者以外秘密にされており、北朝鮮内部からもなかなか漏れてこない。だから以下の分析は、確実な裏付け情報があるわけではないが、多くの状況証拠からその可能性があると私が判断していることだ。

安倍政権が今、日本政府が持つ確実な生存情報をもとに、北朝鮮に対して、彼らが死亡謀略情報を流している横田めぐみさん、田口八重子さんは生きているから、この2人を含む全被害者を返せという水面下の交渉をしており、金正恩がそれを決断できないので7月の報告が延期になった。そうであれば、全員救出の希望はまだある。

その一方で偽遺骨技術開発急ぐ北朝鮮

次に、救う会が入手した遺骨偽造技術開発情報について詳しく書いておく。

救う会は最近、以下の情報を入手した。

〈北朝鮮の専門家が、二年前から高温で焼いてDNAが抽出できなくなった遺骨に拉致被害者の体液や排泄物などを混入し、当該被害者の遺骨を偽造する実験を繰り返している。

金正恩はスイス留学を経験しているのでヨーロッパの科学技術に関して知識と関心を持っている。金正恩政権になって、金正恩は専門家をヨーロッパのある機関に研修に出した。そこには日本が持っているものと似ているDNA鑑定装置がある。

2013年、研修を終えて帰国した専門家に、金正恩は、2015年5月までに遺骨を偽造する技術を開発するように指令を下した。ただし、彼らはその技術が何に使われるのかは知らない。期限である2015年5月現在、その技術開発はかなり進んだが、完成はしていない。

その技術とは、DNAが抽出不可能になる限界温度で遺骨を焼き、ほぼ灰状態になった遺骨に、他の人間の血液、体毛、大小便などのDNAを混入し、他の人間の遺骨に偽造するというものだ。

遺骨偽造の対象者に、横田めぐみさんが含まれる可能性が高い。彼女は金正恩を幼いときから知っているなど一番多く秘密を知っているからだ。めぐみさんは日朝協議開始後、それ以前より一層厳重な管理の下におかれ、外部との接触を断たれている〉

2004年、北朝鮮が提出した横田めぐみさんのものといわれる高温で焼かれた遺骨から、他人のDNAが検出されたことに対して、英国の科学雑誌「ネイチャー」は「遺骨が北朝鮮で保管されていたとき、他人のあかや汗などで汚染されていたかもしれない。検出されたのが混入されたDNAであれば、北朝鮮が遺骨を捏造したと断定はできない」と書いたことがある。北朝鮮は、この記事を見て、逆に、他人の遺骨を被害者の体液などで汚染して出したら遺骨を捏造できると考えたのではないか。これなら被害者を傷つけることはない。

金正恩に正しいメッセージ発信を

この情報をもとに、救う会メールニュースで以下のような緊急報告を発信した。全文を引用する。
《緊急報告・金正恩が日本人拉致被害者の遺骨捏造を準備している
平成27年6月15日
北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会会長 西岡力

救う会は最近、「北朝鮮の科学者らがヨーロッパで習得した技術を使って、高温で焼いてDNAが抽出できなくなった遺骨に別の人間の体液や排泄物などを混入し、別の人間の遺骨として偽造する実験を繰り返している」という情報を得た。その実験が成功すれば、生存している日本人拉致被害者の遺骨を捏造することが可能になる。

金正恩政権は早ければ7月にも、日本人拉致被害者に関する報告を出してくるだろう。そのとき、2002年に死亡と通告した8人について、「やはり死亡していた」と再度、ウソをつく危険性は残っている。もし、またウソをつくのなら、捏造した「被害者の遺骨」が出てくるだろう。この情報が正しければ、その準備をしていることになる。

西岡力救う会会長は昨年日朝協議が始まった頃から、繰り返し、金正恩政権が、生存している拉致被害者を傷つけて遺骨を捏造する危険があると警告してきた。そのとき、「2012年にヨーロッパのある国の病院で遺骨を高温で焼いた後、DNAを鑑定する実験を実施し、●●(原文ママ)度で火葬すると死亡原因や年度は判別不能になるが、DNAは検出可能だとの結果を得た」という北朝鮮内部情報を紹介している(詳しくは2015年4月に西岡が出した『横田めぐみさんたちを取り戻すのは今しかない』PHP研究所)。

今回の情報は、生存している被害者を傷つけることなくその被害者の遺骨を捏造する技術実験をしているというものだが、遺骨捏造のための技術をヨーロッパから得たという点では、西岡会長の上記情報と一致している。

「日本政府は世界最高のDNA鑑定技術を持っており遺骨から死亡時期を判別できる。また、外部から混入されたDNAを遺骨から選別する技術もある。その上、死亡とされた8人に関して確実な生存情報を持っている。被害者を殺傷するな。それをしたら日朝関係は最悪となる」というメッセージを金正恩に向けて発信し続けなければならない。

家族会・救う会は今年3月、「北朝鮮に報告を求めるのではなく、すべての被害者が生きて帰ってくることを求める」という運動方針を決めた。今こそ、すべての力を結集して、「全被害者を一括帰国させよ、それなしには金正恩政権の未来をなくすぞ」、という毅然たるメッセージを発信しなければならないときだ。

あらためて政府には、ぶれずに全ての拉致被害者の一括帰国を強く北朝鮮に求めてほしい。北朝鮮に対する私たち日本国民の怒りは頂点に達している。全被害者を返さなければ、制裁・法執行・国際連携を最大級に強めて「金正恩政権の未来をなくすぞ」と警告する》

被害者家族らの悲鳴に耳傾けよ

この緊急報告が発信された翌日6月16日、国会議員会館で拉致議連の総会が開かれた。そこで家族会代表である飯塚繁雄さんと横田めぐみさんのご両親は以下のような緊迫感溢れる挨拶をした。総会には外務省から日朝協議を担当している伊原アジア太平洋州局長も参加していた。

〈まさに今、決戦の時期がきたという緊張感がある。しかし、北朝鮮がすべての拉致被害者について報告してくるとは考えられない。全員を取り戻すのが我々の目的であり、これを大きな声で要求していかなければならない。

金正恩がどう決断するかだが、国際社会の「理解と協力」だけではで取り戻せないと思う。日本が、北朝鮮が困って返さざるを得なくするべきで、強い態度と姿勢が不可欠だ。そのために、日本の総力を結集して、各部署で精力的な努力をお願いしたい。我々は7月が決戦の時と考えている〉(飯塚繁雄・家族会代表、田口八重子さん兄)

〈昨年日朝協議が始まったときには、1年後には帰ってくると期待したがいまだ何もない。被害者の親の世代で一番若いのが早紀江で、私が二番目だがもう82歳になった。めぐみは何度も死んだことになったが、「死亡」とされた人も不自然な形で報告され、さらに洪水に遺骨が流されたとか腑に落ちないことばかりだった。是非、政府の力で取り戻してほしい〉(横田 滋・家族会前代表、横田めぐみさん父)

〈今度こそと思う度に頓挫して18年。総理や大臣に何度もお会いし、署名活動をし、国民の皆様に訴えてきた。国連人権委員会も取り上げたが、北朝鮮は態度を変えようとしない。北朝鮮も捨てたものではないという態度を一回くらい示してほしい。

報告書ではなく、生きた姿で祖国の土を踏ませてやってほしい。最悪の場合、捏造した遺骨を出してくるかもしれないが、我々家族は受け取らないし、政府も受け取らないでほしい〉(横田早紀江・横田めぐみさん母)

早紀江さんが「遺骨が出てきても受け取らないで欲しい」と断固たる調子で話したとき、伊原局長は緊張した表情でうなずいていた。

産経新聞などが、西岡緊急報告の内容を繰り返し報じた。また、早紀江さんの「遺骨を受け取らないで欲しい」という発言は、NHKなどのTVニュースで映像として流れ、関係者の衝撃を生んだ。

北朝鮮でもこれらのニュースは重く受け取られたと聞く。この情報は信憑性が高いということだ。先述の通り、金正恩は拉致問題を使って日本から獲得したいものを多く持っている。それらへの未練は捨てていない。

しかし、全員返すことに反対する工作機関の声を完全に無視もできない。ジレンマを解消する方法として、遺骨を捏造する技術開発を進めていたことは間違いないが、それが事前に暴露されたので、その手段を使うことも事実上困難になったのではないか。それが、7月報告延期、しかし「誠実に履行している」と言い続けて安倍政権との協議を中断しないという、現在の姿勢の背景だと考えるとかなりつじつまが合う。この部分についてはまだ、内部から情報は取れていない私の分析であることを明記しておく。