*(承前8982号のつづき)
ジェンセン・ファン(エヌビデァCEO)がテレビにでると視聴者はまるでトーマス・エジソンが語る一言一句を聞き漏らすまいと身構えるそうな。ファンは凄まじい人気に包まれ、講演会場ではサインをねだられトイレにまでついてくる「ファンのファン」に追い回される。(日本では町を歩いても誰も知らないし、声をかけないだろうが)
睡眠不足とメディア露出の頻度の激しさで、ときおり最初に言ってことと後半の発言が矛盾している。またAIが人間の頭脳を超えるという悲観論には一貫して反対の立場だったが、世論の急激なAI規制論を前に、とくに懐疑論のヒントン教授がノーベル賞を受賞したあたりから、「そんな質問はもう沢山だ」と回答を留保するようになった。
イーロン・マスクとジェンセン・ファンの共通点は何かと言えば、ワーカホリック、賭け事に強く、一級のエンジニアで自信過剰とも言える方向に驀進する。そして二人とも寿司が大好きでロスアンジェルスで会うと(ときにオラクルのエリソンも交えて)、日本人板前さんのいる高級寿司店。ファンの愛犬は「寿司」であることは前回も書いた。
ところが二人には決定的な違いがある。マスクは平気で側近を解雇し、すぐに喧嘩別れ(オープンAI初期にアルトマンと喧嘩して別れ、トランプ大統領ともDOGEをめぐって大喧嘩)、情緒的にドライだ。
他方、ジェンセンは東洋人に特徴的な、忍耐強く、滅多に人材を解雇しない上、いちどエヌビディアをさった人間も迎え入れる。ジェンセンは忠誠心を評価するが、マスクはそんなものに価値を認めない。
だからマスクは何回か離婚しているが、ファンはローリ夫人ひとり。
「マスクの動機とその起業基板はファンタジー、ファンは現実に立脚してアイディアの実現に邁進する。ファンは愛犬家、クラシックカーや骨董時計を蒐集するが、マスクとは違って政治的な発言は一切しない」(ステファン・ウィット『考える機会』、拙訳)。
マスクがまだオープンAIに出資しサム・アルトマンと組んでいた頃、ファンがじかに最初の集積回路を届けた。マスクは無造作に製品の梱包を開梱した。アルトマンとマスクの対立はこどもっぽいものでマスクは非営利団体がどうのこうのと批判しているが、要するに主導権が取れず、かれはオープンAIから去って、AIーXを設立するのだ。
2010年代後半までエヌビディアのライバルはAMDだった。2016年にエヌビディアの株価は2・24倍に化けたが、AMDは3倍強の急騰だった。
AMDの蘇CEOはファンとは同じ台湾出身の縁戚だが、彼女は三歳のときに一家がアメリカへ移住したため蘇姿豊はニュヨーク訛りの英悟を喋る。
しかしファンは十歳での米国移住だから英悟のネイティブではない。ファンにとって2010年代の目標はAMDを追い越すことだった。インテルはまだその先に聳えるパイオニアだった。
AMDは日本の任天堂を良好な関係があり、ゲーム機の半導体でエヌビディアを圧倒していた。ところがゲーム機は半年でコンテンツが変わる世界。『スーパ-・マリオ』の大ヒットに恵まれた任天堂は、エヌビディアのスイッチに注目した。
2017年は別の商機があって、エヌビデァは暗号通貨ビジネスに後れを取った。というよりビットコインが登場してもそれほどの関心がなかった。暗号通貨には膨大な電力とアルゴリズムの発掘に特殊半導体が必要だった。
暗号通貨ならびにAIブームのデータセンター構築には天文学的は費用と、電力を必要とし、或る計算では現在の原発の二倍が必要だという。
データセンターは電力供給が安定的で料金の安いテキサス州、ワシントン州、コロラド州などに集中することになる
そして2017年がおわる頃、エヌビディアは単なるゲーム機の半導体供給から、AI全般、それこそロボットから、EV、自動運転、ドローン、パソコンなどに必要な画面処理半導体のエヌビディアがこの半導体が場をほぼ独占することになり株価は創業以来から400倍に化けていた。
(続く)
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