IS対策でアメリカ、EUの優位に立つプーチン露大統領(加瀬英明のコラム)

私はもう50年にわたって、アメリカの脈をとってきたが、アメリカがこれほど迷走しているのを、初めて見る。
2001年9月11日に、アルカイーダのイスラム過激派テロリストが、ニューヨークの世界貿易センタービルを破壊した。
アメリカはブッシュ(子)政権のもとで、イスラム・テロリストを根絶するために圧倒的な軍事力を投入して、短時間でアフガニスタンのタリバン政権と、サダム・フセイン政権を壊滅した。
ところが、アメリカはイラクの占領政策を大きく誤って、フセインの政権党だったバース党と、イラク国軍を完全に解体したために、新しいイラク政府をつくったものの、アメリカ軍が留まっていたかぎり、イラク中心部の治安をかろうじて維持することができた。
オバマ大統領が2008年にイラク、アフガニスタンからアメリカ軍の撤収を、公約の目玉として当選した。オバマ大統領は現実よりも、公約を優先させて、2011年にイラクから、2015年にアフガニスタンから戦闘部隊を引き揚げてしまった。
アフガニスタンの状況も悪化しているが、イラクから撤兵したために、空白が生まれたあとに、イラクとシリアに跨って、“イスラム国”(IS)という妖怪が出現した。
ISは、オバマの申し子である。オバマ政権はISの脅威が増大するなかで、2015年にイラクへ軍事顧問団と特殊部隊を増派したが、戦闘部隊を再び投入することを拒み続けている。
アメリカがISに対して戦闘部隊を投入すれば、ISという“国家”を壊滅することができる。
イスラム・テロリストを根絶することは、アメリカの国家戦略であったはずだ。アメリカが国家戦略を放棄することは、アメリカの信頼性を疑わせるものだ。
2015年10月には、ロシアのプーチン大統領が、シリアにアサド政権を守るために、ロシア空軍を投入した。ロシアはシリアにある基地周辺に、すでに戦車部隊を送り込んでいる。もし、ロシアが2016年に地上部隊を増派して、ISを本格的に攻撃して、ISの“首都”のラッカを奪ったとすれば、アメリカはプーチン大統領によって、イラクとシリアという油揚げを、鳶(とんび)に攫われることとなろう。
プーチン大統領は、“ベルリンの壁”倒壊後、はじめてアメリカに対して優位に立とうとしている。
それに加えて、ドイツのメルケル首相がシリアから難民を大量に受け入れることに踏み切って、東ヨーロッパ諸国にもEUにおいて多数決をもって、難民を引き受けるように強いたために、EUが分裂するようになっている。東ヨーロッパ諸国にとって、難民は真っ平御免だ。プーチン大統領にとって、EUに楔(くさび)が打ち込まれたのは、朗報だ。
オバマ大統領は、国家戦略観がない。もともと、シカゴの市民運動家の出でしかない。だが、アメリカが意志力を衰えさせているのは、国家の安全をアメリカに寄生している日本にとっては、一大事だ。
もっとも、ISが壊滅したとしても、イスラム・テロリストを根絶することはできない。
イスラム過激派を根絶するのは、麻薬に対する戦いや、癌に対する戦いのようなものだ。
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