丸谷元人著『危機管理は最高の投資である』(育鵬社) 勝敗は危機の前に決まっているのです 最悪を前提とし、市場を征する企業経営者、組織のリーダーは必読
筆者の丸谷氏は危機管理の第一人者として世界中で活躍するが、とりわけ危機管理を企業のマネジメントに限定せず、国家安全保障と密接に結びつける。企業経営者、組織のリーダーばかりか政治、官僚にもきついパンチの警告である。
名前のマルタニ氏の「タ」に濁点をつけるとイラン外相と同じ名前になるが、明日イランへ飛んで日本企業の危機管理を担当するとしてもまるで不思議はない。
テロ、身代金、ハッカー、海外に於ける身の安全。なにしろ国際化の時代、危機は内外を問わず隣に存在している。
なぜ日本人はかくも危機管理に鈍感なのか?
それは「日本企業特有の教訓を組織に定着させられない体質」にあるという。つまり反省が伝わらないのだ。地震とか災害、サイバー攻撃にあうと「その瞬間は過剰なほどに反応する」。システムを見直し、安全管理の教育を徹底する。しかし「その熱はながく続かない」(39ページ)
外国企業との合弁事業で、工事の遅延が発生したとしよう。
『相手とは何度も酒を酌み交わし話し合いを続けてきたのだから、お互いに信頼関係が築かれている。だから相手に失礼だし、仕事の邪魔だ』というのが実例としてあげられるのだが、ここにも日本人特有の「本質的事実」の追求ではなく「情緒的な信頼関係」を基盤として判断する。
これが日本的な意志決定である。
『根底には相手は裏切らないはずだ』という性善説にもとづく思考があった。だが「日本人の常識が通用しない海外においては誠意も、交渉材料の一つに過ぎないし、信頼とは結果であり、前提ではない」(45p)
以下、日本企業が陥りやすい五つの特徴的なアキレス腱がある。
(1) 正常性バイアス
(2) 確証主義
(3) 空気が支配する社風
(4) 責任回避
(5) 問題の先送り
これらは組織内部の五つの病であり、危機を拡大させてしまう要因となるのである。
しからばいかなる対策があるのか。
氏は(1)危機回避(2)リスクの低減(3)移転(4)受容という分類に分けて、『回避』とはリスクをとらない、契約どころか関与しないという強力な選択もあるが、市場主義の企業戦略では、思考がなかなか及ばないのである。
リスク低減とは警備強化、契約書を厳格とし、情報収集を強化することになる。しかしこの程度では中国とはビジネスができない。契約を何時でも反古にして難癖をつけるという特性があるからだ。
以下、ナイジェリア、リビアなど筆者が体験した海外の実例を紹介しながら、明日の我が身かもしれない危機管理、対策に関して思考の領域を広げ、危機に於ける意思決定のオペレーションシステムを論じる。
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