東アジア歴史文化研究会のブログ

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兇獣が跋扈する国際社会の闇(加瀬英明のコラム)

東アジア歴史文化研究会

2018.12.10

トルコのサウジアラビア総領事館を訪れた、アメリカに亡命中だったサウジアラビアの反体制ジャーナリストのジャミル・カショギ氏が、本国から派遣された情報機関のチームによって、館内で惨殺された。

日本のテレビのワイドショーによって、連日、大きく取りあげられた。

トルコの新聞によって、カショギ氏が総領事館内で殺害されたと報じられてから、アメリカのポンペイオ国務長官が、カショギ氏殺害の疑いをめぐって、サウジアラビアに急いで飛んで、実権を握っている33歳のモハマド・ビン・サルマン皇太子と会見した。

この時のポンペイオ長官とサルマン皇太子の写真を見ると、2人とも微笑んでいる。

トランプ政権は、カショギ氏惨殺が事実であっても、サウジアラビアが中東外交の重要な駒であり、武器輸出の大切な顧客であることから、大事にしたくないと望んでいた。

サウジアラビア政府は殺害を隠蔽できず認めたが、政府や、皇太子の指示によるものでなく、情報機関が勝手に行ったと言い逃れている。

読者の多くが、サウジアラビアに対してだけでなく、ポンペイオ長官が満面の笑顔をつくって、サルマン皇太子と握手を交したのを見て、不快感をいだかれただろう。

それなら、トランプ大統領が笑顔を浮べて、北朝鮮の金正恩書記長を抱擁したのは、どうなのか。金書記長は異母兄の金正男氏をマレーシアで、白昼、暗殺したではないか。

トランプ大統領は、中国の習近平主席とも抱きあった。中国は新疆ウイグル自治区で100万人以上を「集団訓練所」に拘置して、多くのウイグル人を虐殺している。チベット、内モンゴルでも、戦慄すべきことが起っている。

ところが、トランプ大統領が金書記長や習主席と親密に振る舞っている映像を見ても、強い嫌悪感に覚えることがないだろう。

ロシアのプーチン大統領も国外に亡命した多くの反体制派を暗殺している。

私たちの日常生活の感覚で諸外国を判断してはならない。サウジアラビアは、中国、北朝鮮や、ロシアと体質が変わらない国家だ。

世界は日本国憲法の前文で、たからかに謳っている、「公正と信義」を重んじる「平和を愛好する諸国民」によって、構成されているわけではない。国際社会は兇獣が横行するジャングルと変わらないのだ。

私はこれまで本誌で、今年に入ってから2回にわたって、サウジアラビアが安定を保てない可能性が高いと警告してきた。

サルマン皇太子は、サウジアラビアの“脱石油化”をはかって、きらめく近代国家に造り変えようとする壮大な計画を進めてきたが、私は皇太子の改革が成功するはずがないと予想してきた。

カショギ氏はメディアが伝えているような自由主義のジャーナリストではない。アル・カイーダや、ムスリム同胞団が信奉するイスラム原理主義に加担して、サウジ王家が民意を踏み躙っていることを、亡命先のアメリカから激しく非難してきた。

サルマン皇太子がカショギ氏を目障わりだとして、計画的に殺害したのは、人口2400万人あまりのサウジアラビアの安定がきわめて脆いことを示している。

皇太子が82歳で、病んでいるサルマン父王によって罷免される可能性もあろう。これまでサルマン国王は2人の皇太子を解任してきた。

サウジアラビアをめぐる報道を対岸の火災として見てはならない。日本はサウジアラビアを中心とするアラビア半島の産油諸国から日本経済を支える石油天然ガスの80%を輸入している。アラビア半島が混乱に陥ったら、日本が大きくよろめくことになろう。

日本のテレビの「ワイドショー」は「ショー」(英語で見世物)の言葉通り、視聴者の好奇心だけみたす娯楽番組でしかない。

(外交評論家 加瀬英明)