【突破する日本】“外交上の配慮”が中国の軍事的脅威を分かりにくくしている安保法案

2015.07.28
中国が東シナ海に増設したプラットホーム(防衛省提供)
★(1)
安全保障関連法案の参院での審議が始まった。法案についての国民の理解が広がらず、安倍晋三内閣の支持率が落ちている。無理もない。
野党や一部メディアは、法案が戦争準備法であるかのように宣伝している。民主党は徴兵制が導入されるかのような冊子を作り、国民の不安を煽っている。女性週刊誌も徴兵制の特集を組み、若いお母さんたちは「戦争法反対」に傾いている。
政府も「切れ目のない」安保法制が必要な理由を、国民が理解できるように示せていない。安倍首相の示す、暴漢や火事の例え話も分かりにくい。分かりにくくしているのは、政府が「外交上の配慮」があって、安保法制が本当に必要な理由を示せていないからだ。
「切れ目のない」安保法制が必要な理由は、何より大きく軍事台頭する中国に対する「抑止力」を強化することにある。今、中国は南シナ海と東シナ海で不穏な動きを見せている。
南シナ海では岩礁に人工島を構築し、軍事基地化しようとしている。東シナ海の日中中間線付近では海洋プラットホーム16基を構築し、これまた軍事施設化される可能性が高まっている。そうなれば、中国軍のレーダー網で、南西諸島における米軍や自衛隊の動向が丸裸にされる。わが国の安全保障戦略を根幹から揺るがす事態だ。政府も22日、外務省のホームページで写真を公開した。
今年は中国軍が勝手に引いた「第1列島線」の突破目標年に当たる。九州を起点に沖縄、台湾、フィリピン、ボルネオ島を通って南シナ海全体を囲むラインのことだ。中国軍はその内側を内海にするとし、他国、とりわけ米国の軍艦の立ち入りを排除しようと考えてきた。そして、それに向けて着々と歩を進め、今日に至っているのだ。
安保法案に関する議論は、このような、わが国が直面している安全保障上の現実を前提としなければならない。「この現実の中で、どのようにすれば、国民の安全と国の主権が守れるか」という視点が必要だ。
しかしながら、法案反対の野党や一部メディアは、この現実を伝えようとしない。伝えても中国の動きと意図的に切り離し、政府が戦争の準備を始めようとしているかのように煽っている。
政府も、法案の必要性を説くに当たって北朝鮮の名は出すが、中国の名を挙げない。「刺激してはならない」という外交上の配慮だが、法案の趣旨を分かりにくくしている。政府は難しいだろうが、与党関係者がその点を明示すべきではないのか。

■八木秀次(やぎ・ひでつぐ) 1962年、広島県生まれ。早稲田大学法学部卒業、同大学院政治学研究科博士課程中退。専攻は憲法学、思想史、国家論、人権論。第2回正論新風賞受賞。高崎経済大学教授などを経て現在、麗澤大学教授。教育再生実行会議委員、法制審議会民法(相続関係)部会委員、フジテレビジョン番組審議委員、日本教育再生機構理事長など。著書に『憲法改正がなぜ必要か』(PHPパブリッシング)など多数。
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