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【大前研一のニュース時評】経済オンチ〟の英国トラス首相、世界恐慌のトリガーになる恐れ 大型減税を柱とする政策で金融市場が大混乱

東アジア歴史文化研究会

2022.10/8

危なっかしい英国のトラス新首相(ロイター)

英国の経済政策が迷走している。先月23日に打ち出したばかりの大型減税を柱とする政策が金融市場の大混乱を招いたとして、3日、経済対策の目玉の1つ、所得税の最高税率引き下げを撤回した。わずか10日で撤回に追い込まれたわけだ。

この経済政策、金融業界の投資や雇用を英国に集めるため、来年4月に所得税の最高税率を45%から40%に引き下げるほか、大企業を対象に引き上げる予定だった法人税率を現在の19%のまま維持するというもの。

これが財政悪化やインフレ加速の懸念を生んだため、26日の外国為替市場で英国の通貨ポンドや英国国債への売りが加速し、ポンドは対ドルで5%以上下落し、一時は10・035ドルになって、37年ぶりに安値を更新した。

28日には格付け会社ムーディーズが財源の裏付けのない減税について、財政赤字の拡大と金利の上昇を引き起こし、同国に対する投資家の信頼を脅かす「クレジットネガティブ」になる恐れがあるとの見解を発表。

イングランド銀行も市場の安定化に向け、650億ポンド(およそ10兆円)の長期国債の買い入れを開始すると発表した。

スキャンダルにまみれたボリス・ジョンソン前首相の後釜となったリズ・トラス新首相は、経済のことがまったくわかっていない。減税によって、英国の歳入は減少する。その財源不足を補うために、英国債の発行急増は不可避。結果、財政状況は悪化し、世界の投資家はポンド、英国債、英国株を一気に手放すことになったわけだ。党首選で最後まで争ったスナク前財務相は金融の専門家だが、彼を閣内に入れなかったことも大きな問題だ。

市場混乱を受け、与党・保守党の支持率は急落している。調査会社ユーガブの世論調査では、保守党の支持率は21%。一方、最大野党の労働党は54%だった。

2016年6月の国民投票を受け、英国が20年1月にEUを離脱したとき、私は1ポンド=1ドルのパリティ(等価)に近づくのではないかと思っていた。そのときは持ちこたえたくせに、トラス新政権になった途端、この体たらく。

この英国発の市場混乱は世界各国に連鎖を招いた。いま世界の経済は非常に微妙な状況になっている。

30日の米国ニューヨーク株式市場のダウ平均株価(30種)の終値は、前日比約500ドル安の2万8725・51ドルだった。2万9000ドルを割り込むのは約2年ぶり。インフレ圧力が弱まらず、連邦準備理事会(FRB)の利上げ継続が見込まれることから、住宅新規着工が停滞し、景気後退懸念が一段と強まっている。中国も不動産がドーンと下落する可能性がある。

どこの国もみんなイライラしている。そんな中、英国の経済危機が世界恐慌の新たな火種に浮上してきた。

総選挙で第1党になったイタリアの同胞(FDI)のメローニ党首は同国初の女性首相になる見通しだが、この右派政権のバラ撒き財政政策によって、早くも10年物国債利回りが4・92%に上昇している。英国の経済政策失敗がイタリアに連鎖反応し、これが世界恐慌につながるかもしれない。

英国は世界恐慌のトリガーを引くようなことをしないでほしい。しばらくはバカなことをしないでほしい。世界は経済オンチのトラスさんに対し、「名前の最後に『T』をつけて」と願っている。世界の「トラスト」(信用、信頼)を得てほしい。

■ビジネス・ブレークスルー(BBTch)の番組「大前研一ライブ」から抜粋。