東アジア歴史文化研究会のブログ

日本人の素晴らしい伝統と文化を再発見しよう 

宮崎正弘『AI時代の情報術』(ワニプラス)  情報活用術は歴史を学べ。歴史は繰り返さないが韻を踏む。 縄文時代から現代・未来へと時間的に広がり、地理的にも地球全土から宇宙空間まで

東アジア歴史文化研究会

評 竹本俊春

  ◎◎

情報の本質は今も昔も“5W1H(いつ・どこで・誰が・何を・何故・どの様に)”であり、情報伝達の手段が変わっただけだとした上で、情報学の要諦は早く入手し正しく分析・評価して次の手を打つことであり、先ず左右に関係なく情報を大量に仕入れ、情報源により割り引き、形容詞を取り除いて裸の情報から本質を見抜け、そして常に間違いを反省せよと説く。


(情報をいち早く入手せよ)


ワーテルローの戦いでイギリスが勝利したとの情報をいち早く入手したネイサン・ロスチャイルドが逆売りで大儲けしたように、情報は速報性が命のナマモノだ。


速報手段に狼煙や手旗、早馬が用いられていた時代から、有線・無線の通信技術などの技術革新にともない、モールス信号、電報、固定電話、携帯電話を経て衛星も含めたインターネット通信となり、これに平仄をあわせる形で大衆向けの情報発信も新聞、ラジオ、テレビが独占していた時代から、即時配信、即時更新が可能なウエブ上のニュースサイトやXやフェイスブックなどに代表されるSNSなどのサイバー空間に軸足が移った。


スターリンクにより地球全体をカバーするインターネット網が整備されつつある昨今、スマホさえ持てば、いつでも誰でも手軽に情報を発信できる時代となった。


その結果、戦争や事件・事故の生々しい映像をはじめ、政治家や有名人への突撃取材から単に話題性を目指す一発芸や個人的な心情吐露、さらには相場操縦や他者・他社への誹謗中傷を目論むものなど、玉石混交、膨大な情報が常に世界中から発信され続ける情報の洪水時代となった。

この状況をさらに複雑化させたのがAIの急速な発展だ。既にAIが生成する画像や動画は本物との区別がつきにくくなっている。何某かの意図をもってAIが有名人そっくりの外観でその人の声を真似て話したときに、果たして人はそれを生成AIの映像だ。フェイクだと正しく判断できるのだろうか。


映画の戦闘シーンなどは生成AIで本物と見紛う迫力の映像が作成できる。それ故AIは本物の戦争においても大本営発表のプロパガンダにますます巧妙に使用されてゆくことになるだろう。


(情報は左右に関係なく大量に仕入れ、情報源により割り引け)


一般人はどうしても自分の考えに近い情報源を好むのではないだろうか?


評者(竹本)は、日本のテレビ・新聞のバイアスに嫌気がさし、日本のメディアと決別したが、トランプを貶める目的でオバマ陣営によりでっち上げられた偽情報を「特ダネ」と称して流し続けたニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストも見る気になれない。


体よく言えば情報源により100%割り引いてしまっているわけだが、左右・敵味方両陣営の情報を仕入れるというのは本当に骨の折れる、否、心の折れる苦行だと感じる。


適当な言葉が思い浮かばないが、プロとアマの格差はこのあたりにありそうだ。


(情報を正しく分析・評価する)


情報を受け取る側も、AIの進化により自動翻訳の精度が向上し、その気になれば世界中の情報に即座にアクセスすることが可能となった。果たして世に溢れる情報をどのようにして分析・評価すればいいのだろう。

本書にはそのヒントが散りばめられている。


ウクライナ戦争の情報はウクライナやネオコンのシンクタンクの一方的な情報のみならずRTなどロシアのメディアも見よ。


中国の裏事情は亡命中国人から取れ。中国ではすぐに消される情報のほうが真実に近い。極左のガーディアンも読め。アメリカの福音派はキリストの奇跡を信じようとしている人々であり彼らの価値観を理解せよ。アメリカの投資ファンドはロシア革命以前の債務支払を求めてロシアを提訴した。その執念深さも理解せよ。一方、欧米のキリスト教的価値観からの情報のみに頼らず、テヘランタイムズやタイムズ・オブ・インディアやアルジャジーラもチェックせよ。


不当判決、凶悪なロシア兵、家族を守るウクライナ兵など表現から形容詞を排し、判決、ロシア兵、ウクライナ兵に関する5W1Hを情報として抽出せよ。


そして歴史を学べ。歴史は繰り返さないが韻を踏む。


プライム以下の信用度のサブプライムローンを金融工学により見かけ上信用度が高くなるように組成した金融商品が金利上昇局面で劣化してベア・スターンズなどが倒産し、最終的にリーマン・ブラザーズが倒産してリーマンショックとなった。


日本は円暴落を恐れて金利を上昇させたが、イラン情勢による原油高の影響を抑える為にも円を防衛する必要があり、さらなる金利上昇局面にある。そして日本の住宅金融の主力である変動金利のローンには、「5年ルール・125%ルール」があり、金利が上昇しても5年間は返済額を増やさず、6年後は返済額の増加が125%までとするルールで、2029年前後に最初の返済額の見直しが来る。


これをリーマンの歴史と対比すべきだ。


文字ばかりでなく、街を歩き、知人、人脈を充実させよ。ソ連崩壊も大統領選挙でトランプがヒラリーに勝利することも伏線はあった。


ヘイト、フェミニズム、BLM、LGBT、DEIなどの社会的公正運動はマルクス主義的下部構造を持ち旧来の社会を破壊している。


(ケーススタディー)


本書のヒントを元にイラン戦争について考えてみた。エピック・フューリー(壮絶な怒り)はトランプの47代大統領と語呂合わせして47年間の怒りだとしているが、それではその前のモサデク政権がイギリスの石油利権をイランに取り返そうとした時に政権を転覆した事実はどう説明するのか?


これは自分(トランプ)が決めた戦争だと言うが、ルビオ国務長官はイスラエルが単独でイラン攻撃を行った場合に米軍が基地をおく湾岸諸国が攻撃されるのを防ぐ為参戦に踏み切ったと言ったではないか? イスラエルの影響はなかったのか?


本当にアメリカは戦争・戦闘に勝利しているのか?


日本・韓国・英国・ポーランドへの武器供与が遅れているとの報道があるが、アメリカの武器が消尽しつつあるのではないのか?


アメリカのベッセント財務長官が言うようにアメリカの逆海上封鎖でイランは石油インフラが損傷して溺れるネズミのようになるのか?


歴史からみる。イラクと比較すればイランの国土面積は3.7倍で人口は1.9倍(9千万人)だ。イラクはメソポタミア平原が中心の平坦な土地だったが戦争は8年続いた。アフガニスタンでは20年間アメリカの傀儡が統治したがその間、アフガニスタンの全土制圧には至らず、国土の半分程度はタリバンが支配していた。イランもアフガニスタン同様山岳地形だ。


5月26日時点で今にもイランが無条件降伏をのみそうな報道があるが、果たしてどうなるのだろうか?


アメリカネオコンのレジームチェンジの歴史が韻を踏まず、今回はトランプの侵攻が奏効するのだろうか?このような疑念が湧く。


(AIについて)


情報という切り口から離れてAIに関しても解説されている。AIが意識を持ち人類と敵対する。或いはAIが嘘をつくことを覚えるという事態は人類にとって重大な脅威となり得る。

キルスイッチやガードレールなどがきちんと構築され、機能するのか?

現代社会にも学力低下などの深刻な影響が残る進歩的教育(progressive education)は社会主義者であるロバート・オーウェン(RobertOwen, 1771~1858)がその起こりだとされるが、彼は人間が環境の産物だと主張し、当時教育を担っていた教会や家庭から隔離し、キリスト教と子供を切り離して社会主義を教え込もうとした。


では、AIを初期教育するものはだれなのだろう?


聖職者や哲学家がAIを教育するなどとは考えられない。そもそも極めて重要な問題でありながら人によって解が異なる、政治的な中立や何が善で何が悪なのかなどをAIにどうやって教えるのだろうか。AIが独自判断して武器で人を殺害することの是非やAIが人の仕事を奪う等の問題もある。


これらの広汎なAIの課題は人類の叡智により問題が表面化する前に解決できればいいが、愚者は経験から学ぶという格言の通り、どうもこれらの問題は見切り発車となり、経験(失敗)によって代償を払いながら解決していくことになるのではないだろうか。


本書では話題が縄文時代から現代・未来へと時間的に広がり、地理的にも地球全土から宇宙空間までの広大な広がりを持つエピソードとともに語られており、宮崎正弘先生の舞台裏を垣間見る思いで大変に参考になる書物でした。