ロシアは何と戦っているのか?~ウクライナ国民の悲劇と世界の欺瞞(ノンフィクション作家 河添恵子氏)

2022/4/01(金)
- 米国政府の発言は「正義」なのか?
今月の拙文の最初に。家を失い、家族を失い、恋人や友人を失い、尊い命を奪われたウクライナのすべての方々に心から哀悼の意を表したい。
一方、ロシア政府は「防衛戦」と位置付けている。戦争行為の肯定は絶対にするつもりはないが、戦地で命を落とし、瀕死の重傷を負った軍人たちとその遺族、そして、ロシア人であることから職を失った方々、差別に苦しむ方々、辞任や解任に追い込まれた著名な音楽家や芸術家、国際大会への出場資格を失ったアスリートたち……こういった、西側諸国によるヒステリーとも言える虐めに悲しみ苦しんでいる罪なきロシア人にも心を寄せたい。
この残酷な集団虐めに、我々日本人が入るべきではないと考える。それよりも、なぜこのような事態まで悪化していったのか、真実を隠蔽し続けるDS(ディープステート)の手足、マスメディアと決別すべきではないのか。
世間はレッテル張りが好きだ。米国は正義、ロシアは悪、プーチンは悪魔、ウクライナのゼレンスキー大統領はヒーロー、イランのフセインは悪、リビアのカダフィーは悪……親米か親露か、反露か反米かなど。ただ、そういった二元論で考えること自体、洗脳されているかもしれない、と思ったほうがいい。
また、3月4日の報道で、私は「当分、戦争が続く」と絶望的な気持ちになった。ゼレンスキー大統領がウクライナ上空の「飛行禁止区域」設定を求めたところ、NATOがその設定を拒否した、という内容である。これは、米国や英国、欧州主要国、NATOが、「ロシアの空爆を放置する」、戦争を続けさせる姿勢を明確にしたも同然と捉えたからだ。実際、ゼレンスキー大統領は、この決定に「NATOはさらなる空爆に青信号を与えた」と非難。案の定、米国は追加で、また英国や欧州連合(EU)、NATOもウクライナに「戦争を続けるための装備」を提供していることが報じられている。人道支援など、二の次、三の次なのだ。
冷静に考えたいことがある。この20年間で、米空軍とその同盟国は33万7000発以上の爆弾やミサイルを他国に投下、平均すれば米軍は毎日46回の空爆を行ってきたのだ。この数字は、米国防総省がバイデン政権下で「エアパワー・サマリー(空軍実績報告書)」を公表、それをもとに反戦団体「コード・ピンク」の設立者と同団体の研究者らで割り出し、米ニュースサイト「コモン・ドリームズ」が最近、報じたものだ。この際限のない空爆は、これまでのアフガニスタン、イラク、シリアにおいても、ウクライナ同様、罪のない一般市民から大量の犠牲者を出し、破壊をもたらし、国際平和と安全を著しく脆弱にしていった。
米国が仕掛ける戦争、国体と国民の破壊活動は、なぜ多くにとって「悪」だと感じなくなっているのだろう? 米国は自由と民主主義が浸透した「善い国」。そして米国政府の発言は「正義」だと、いつしか洗脳されてきたからだと考える。トランプ前大統領らが「SAVE THE AMERICA(アメリカを救え)」を掲げ、自由と民主主義を取り戻すために死闘を繰り広げていることを、大多数は知らないし、理解しようともしない。
- ウクライナの悲劇は主戦場に「選ばれた」こと
そして、ロシアは誰と戦っているのか? ウクライナと、ではない。「世界統一政府の樹立」に向かうDSと戦っている。ロシアの天然資源(天然ガスや石油等)にまつわる利権を、クレムリンから奪うことを目論むDS、米英、EU、NATOは、プーチン体制を「独裁」と名指しし、崩壊を目指し、長期にわたり、ロシアそして旧ソ連邦の国家にさまざまな工作を仕掛けてきた。プーチン大統領が「国家資本主義」を唱え、国家にある資源は国(政府)が管理し国民との共有資産であるとの考えで、国の運営をしてきたためだ。
すなわち、「独裁者」という大義で、中東アラブ諸国で世界の富=資源の利権を収奪してきたDSの価値観と、「国益主義」「多国間主義」の価値観を打ち出すロシアは、この20年、真っ向から対立してきた。ミハイル・ガルージン駐日ロシア大使は、「西側諸国がロシアに対してしていることは外交ではなく制裁だ」「NATO軍はロシアを敵と位置付けている」と語っているが、「国益主義」という〝異なる価値観〟が制裁や粛清の対象になってきたのだ。
クロアチア人(旧ユーゴスラビア)のザグレブ大学教授(政治哲学専攻)のジャルコ・プホブスキ博士が、N1テレビ(3月4日)で、このように語っている。
「世界の基準が明らかにおかしい。ロシアに対する制裁が、米国やイスラエルに対してされていない。安全保障理事会の許可なくバグダッドや(セルビアの)ベオグラードが爆撃されたこともあったのに、今となって国際秩序に訴える。ロシアを脅威としてみなしているのに、なぜ米国やイスラエルに対しては目をつぶるのか? 侵略は侵略だ。ロシアは今までに、様々な脅しを使ってきたが、宣戦布告は一度もしていない。一方の米国はイラク、シリア、アフガニスタンへ侵攻した。第二の超大国は、もう長年戦争をしていなかったのだ」
もう1人、クロアチア人の地政学専門記者で、地政学ニュース編集長のゾーラン・メテル氏は2月24日、自身が運営する地政学ニュースでこのように記している。
「プーチンは、疑いの余地もないロシアの愛国者で、ソ連崩壊で失った国際関係におけるロシアの強力な地位を回復することに成功した。長い間、ロシアの国益と保護の観点(プーチン曰く、相互尊敬と平等性の観点)から、西(米国)と政治的協力と会話ができる形やモデルを模索したにも関わらず、西はそれを認めたくなく、プーチンを衝動的な人物として見るようになった。ワシントンは常に、ロシアの考え方が21世紀に合わないからその権限がないとつっぱねていた」
「21世紀」は、マスメディアのプロパガンダにより、多くが耳タコ状態になっているはずの「グローバリズムの時代」である。すなわち世界統一政府を目指す者たちにとっては、その実現にリーチをかけている時代なのだが、その「目的」にロシアが同調しない、従おうとしないためプーチンは絶対的な悪だったのだ。価値観の多様性などという美しい表現こそがFAKE(フェイク)だと言わざるを得ない。
挙げ句、ロシア(東スラブ系)と民族的に同じルーツの住民が多いウクライナを、ロシアから離すのみならず、敵対させる関係にされてしまった。すなわち、ウクライナの悲劇は地政学的にも民族的にも、DSがロシアと戦う上での「主戦場」として選ばれてしまったことである。
- 戦争を無責任に論じる危険性
しかも8年前から、すでにウクライナ内部では内戦が始まっていた。このことに関する証拠はいくらでもある。マスメディアが隠蔽しただけであり、それを列挙したとしても、大半にとっては「今更」となる。ソチ五輪の後、ロシアがクリミアを併合したのは、戦争が本格化することを見越したロシア側の防衛手段だった。もちろん、ロシアによる侵略行為であることを否定はしない。ただ、それ以前に、「オレンジ革命」と命名されたクーデターで政権が奪取され、ウクライナに主権が「ない」も同然の状態に陥っていたことは、マスメディアが報じないため、大多数は知らないはずだ。私は東欧やバルト3国、すなわち旧ソ連のサテライト国や旧ソ連構成国に長年にわたり足を運んでいるが、ウクライナにだけは行っていない。なぜかと言えば、周辺諸国からこの数年間も、何度か聞いていたのが「ウクライナは政情が不安定で治安も良くない。経済的にも貧困が続いている」だったからだ。
その、ロシアと西側のバッファーゾーン(緩衝地帯)が、とうとう悲劇の主戦場になってしまった。
同じく旧ユーゴスラビアの一、国、セルビア人で、8年前に書いたブログで「ドンバス(ウクライナの東部地域)問題が長引けば、より大きい問題になる」と戦争を予測していた安全保障の専門家、元国会議員でセルビア・モンテネグロ防衛と安全保障議会の元共同議長のブラディミル・ペトコビッチ氏は、長年、仕事で旧ソ連諸国へ赴き、諸国民と会話を重ねてきた人物である。
そのペトコビッチ氏は、「戦争の責任はウクライナ、西、ロシア、全てにあると思う。タイムリーにかつ平和的に問題を解決するべきだった」「欧州で広大な面積を占めているウクライナは、その面積のほとんどが耕作可能な土地だが、欧州基準で非常に貧しい生活を強いられてきた。旧ソ連の崩壊後、ウクライナは自分の国民の統合に失敗したばかりか、各州のトップにはオリガルヒ(新興財閥)がいて、ある意味でその州の民営化をしており、中央政府にはあまり影響力と権力がなかったことも事実だ。また、ウクライナは社会全体として、タイムリーにかつ質良く自分の優先順位を決めることができなかった。例えばウクライナ人とは何か、西に沿うか東に沿うか、もしくは中立を選ぶかなど。国民の非統一が最も大きな理由で、その次に他の元共産主義国のように、腐敗度が非常に高いこともある」と語っている。
なぜ、この度、私が旧ユーゴスラビアの識者の弁を紹介したかったのかも補足したい。同氏が、「ウクライナ人と旧ユーゴスラビア諸国の人は共通点がたくさんある。まず、ウクライナ人が今、文明の岐路に立っているように、ユーゴスラビアの国民も立っていた」と説明していることだ。もう一つ補足すると、ユーゴスラビアとは、「南スラブ人の国」という意味であり、ウクライナ(東スラブ系人が過半数)とは民族的にも近い関係にある。
そして、米ソ冷戦(東西冷戦)の時代を改めて思い起こしてほしい。NATOに対してワルシャワ条約機構が存在したが、そのどちらにも加盟していなかったのがユーゴスラビアなのだ。すなわち、中立的立場を装う北欧(フィンランド、スウェーデン)と、中立国スイス、オーストリアなどと歴史的にも関係が深いユーゴスラビアがこの時代、バッファーゾーンだったのだ。
ところが、である。ベルリンの壁崩壊(の演出)以降、「共産主義は負けた」などのプロパガンダで多くが騙されていた90年代、長きにわたったユーゴスラビア紛争――ボスニア紛争、コソボ内戦などで、それまで社会主義国として「穏やかに暮らしていた」このバルカンの住民たちは、命も経済も大ダメージを受けるハメとなった。
米英仏露伊独、そしてNATOが「バルカン地域全体の安全」などの大義名分でコソボ紛争に強い関心を示し、NATOも空爆という脅しをかけたのだ。
NATO主体の国際部隊(KFOR)が5万人ほどコソボに展開し、78日間の空爆はユーゴ側発表によると民間人死者1200人、NATO側発表によると兵士死者5000人を出した(ユーゴ空爆)。1万回を超えるNATOの爆撃によるユーゴの被害総額は1450億円に達したとされる。
なぜ、このような空爆や紛争が起き、長きにわたり続いたのか? この地域の識者は少なからず、「米国は長年の戦略的目標であるバルカン半島における軍事拠点の確保のため、ユーゴスラビアを分断して弱体化することを狙っていた。EUの拡大強化を狙う英独仏も米国の陰謀と利害が一致していた」と考えている。さらに言えば、命をもて遊び、街を破壊し尽くした上で「巨万の富」を得たのは武器商人と武器利権者(ネオコン)だったのだ。
しかも、この時の戦争は、「セルビア=悪」という一方的な視点で全世界に拡散された。しかし、現地を取材して分かるのは、セルビア人、クロアチア人(両民族は言語も酷似している)、そしてボスニアのムスリム(イスラム教徒)が、「大義なき戦争」に巻き込まれ、相互で殺戮を繰り返すことになったという話であり、「どっちもどっちで誰が悪、誰が善でもなかった」というのだ。
世界世論を「セルビア=悪」に持っていった背景には、戦争PR企業のルーダーフィン(RuderFinn)社の国際イメージ戦略専門家(国際世論の誘導を担当)の暗躍があったことも事実だ。NHK職員の高木徹著『戦争広告代理店』(講談社)にドキュメントされているから詳細は省く。ルーダーフィン社のクライアントはボスニア政府。セルビアを悪とする見事なまでの情報戦で、ユーゴスラビアを国連から追放し、敵側のトップ、セルビアのミロシェビッチ大統領をその後、獄死へと至らせた。その際、米政府はもちろん、野望もあって扱いやすいジャーナリストとの連携など、ローラー作戦で「セルビア=悪」のイメージを作り出し成功させた、というのだ。
だから、「多くのセルビア人やクロアチア人が、あの時の戦争は、米国はじめ西側メディアの操作が事実を誇張した情報を拡散し、歪められた国際世論を形成した」と憤慨していることを知った際、私は腑に落ちた。なぜ、私が「知りもしない」セルビアに対して、良くないイメージをずっと抱いていたのかの「謎」が解けた瞬間だった。
プーチン大統領が2月23日の「祖国防衛の日」祝日を記念して行ったビデオ演説で、「まず、国連安保理の承認なしに、(セルビアの)ベオグラードに対する流血の軍事作戦を行い、ヨーロッパの中心で戦闘機やミサイルを使った。数週間にわたり、民間の都市や生活インフラを絶え間なく爆撃した。この事実を思い起こさなければならない。というのも、西側には、あの出来事を思い出したがらない者たちがいるからだ。私たちがこのことに言及すると、彼らは国際法の規範について指摘するのではなく、そのような必要性があると思われる状況だったのだと指摘したがる。その後、イラク、リビア、シリアの番が回ってきた」と語っていた。現在、同様のことを「ウクライナを主戦場」に西側とマスメディアが結託してやっている、ということを言いたかったのだろう。
この度の拙文について、誤解を招かぬよう最後に申し上げたい。私はロシアの戦闘行為を正当化するために書いたつもりはない。戦争行為は、戦地で絶命する兵士のみならず、罪なき一般人まで大量に悲劇に陥れる、権力者による最悪の手段である。ただ、無自覚なまま長年にわたり刷り込まれた、「善悪という二元論」で、しかもウクライナのことをよく知らず、経験もない上に知識も貧弱なままで、マスメディアや一部SNSの激しい主張に感化されて、「戦争を無責任に論じる」ことは危険だと主張したい。
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