【安倍外交の課題①】日中韓首脳会談を優位に進めた「戦略的思考」とは何か

2015.11.10
日中韓首脳会談では勝利を収めた安倍首相(ロイター)
★(1)
安倍晋三首相は、昨年10月に亡くなった元駐タイ大使の岡崎久彦氏から「戦略的思考とは何か」の薫陶を受けていたと聞く。岡崎氏は、集団的自衛権の行使容認の重要性を説き続けた張本人である。戦略的思考とは「日本が戦争に巻き込まれないように抑止力を高めること」(岡崎氏)にある。
安倍政権は、日米ガイドライン再改定に続き、安全保障関連法を成立させ、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)の大筋合意にこぎ着けた。これで日本は圧倒的な米国の後ろ盾を確実にした。
それを裏付ける出来事が、今月1、2日、韓国・ソウルで開催された日中韓首脳会談と日中首脳会談、日韓首脳会談に合わせて出現した。
米軍はこの前後、東アジアに、原子力空母「ロナルド・レーガン」と、「セオドア・ルーズベルト」を同時展開させた。南シナ海で岩礁を埋め立てて軍事基地化している中国への牽制-という見方もあるが、安倍首相の交渉を有利にさせる、無言のにらみでもあった。
まさに、「軍事力は外交の延長である」(クラウゼヴィッツ=プロイセンの軍事学者)だ。
しかも、日韓首脳会談が行われた2日には、カーター米国防長官がソウル入りした。オバマ米大統領は「対中抑止を確実にするには、日韓関係の改善は不可欠」と考え、日韓両首脳を今年、ワシントンに招待し、双方に働きかけていた。
日米の戦略は、中国にバンドワゴニングする(すり寄る)韓国を引き戻し、日米韓同盟を強化することにある。日米にとって朝鮮半島の戦略的価値は非常に高い。米国は戦後、共産主義から日本を守るために朝鮮半島に韓国をつくり、朝鮮戦争を中国と戦った。
韓国は、日米にとって共産主義勢力からのバッファゾーン(砦)であったし、現在も戦略上重要な地位を占める。
日韓首脳会談は3年半ぶりに開かれた。
安倍首相は「いつでも会談に応じる」と話してきたが、朴槿恵(パク・クネ)大統領は「慰安婦問題の解決」を盾に拒んできた。その朴氏が会談を求めたのはなぜか-。
まず、先に述べた米国の圧力である。オバマ氏は10月の米韓首脳会談で、朴氏に日本との関係修復を強く求めた。
そして、TPPの大筋合意に焦ったことがある。参加12カ国のGDP(国内総生産)の合計は世界全体の40%に及ぶ。参加していない韓国のダメージは甚大だ。経済的危機にある韓国は、今年終了したばかりの「日韓通貨スワップ協定」の再開も期待した。
結局、両首脳は「慰安婦問題に関する交渉の加速化」では一致したが、安倍首相は譲歩しなかった。安倍首相は朴氏に、米軍が南シナ海で発動した「航行の自由作戦」を支持するよう求めたが、中国の顔色をうかがう朴氏の歯切れは悪かった。
これは、日本の戦略的勝利である。
日中韓首脳会談は次回、日本で開かれる。安倍首相は来年5月を軸に検討している。5月末に開催する伊勢志摩サミット(主要国首脳会議)にリンクさせる狙いだ。
各国の思惑が交錯するなか、安倍首相は「戦略的思考」をどう展開していくのか。安倍政権のチャレンジは続く。
■川上高司(かわかみ・たかし) 1955年、熊本県生まれ。拓殖大学海外事情研究所所長。大阪大学博士(国際公共政策)。フレッチャースクール外交政策研究所研究員、世界平和研究所研究員、防衛庁防衛研究所主任研究官などを経て現職。著書に『アメリカ世界を読む』(創成社)、『「無極化」時代の日米同盟』(ミネルヴァ書房)など。
このブログへのコメントはmuragonユーザー限定です。