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「北戴河会議」で習近平が炎上? 李克強とのパワーバランスの行方 一帯一路もコロナ政策も失敗、追及される習近平の責任

東アジア歴史文化研究会

2022.8.18(木)

(福島 香織:ジャーナリスト)

8月1日からおよそ2週間、河北省の避暑地、北戴河(ほくたいが)で中国共産党中央ハイレベルの秘密会議「北戴河会議」があったようだ。

この2週間、政治局常務委員7人の動静が一斉に途絶えており、8月16日なって李克強首相が突如、深圳に現れたことで、北戴河会議が終わったのだと世間が認識することになった。

この北戴河会議でどのようなやり取りがあったのかは、今はまだわからない。ただ、チャイナウォッチャーたちがそれぞれの推測を突き合わせながら導き出した概ねの結論としては、習近平にとってあまり楽しい会議ではなかったようだ。その根拠と推測される状況について説明していきたい。

経済テーマの座談会で存在感を示す李克強

まず、北戴河会議が終了したと世間にはっきりと最初にシグナルを送ったのが、習近平ではなく李克強であったという点から、この会議の内容は李克強にとって有利なものではなかったか、という見立てがある。

李克強は8月16日、広東省に視察にいき、深圳で地方官僚を集め座談会を開いた。李克強は半袖シャツの軽やかな恰好で、マスクをつけない状況で、屋外で若者と対話したり、企業を視察して企業関係者からの意見に耳を傾けていた。李克強は若者や企業関係者から歓迎されているようで、時折拍手なども起きていた。

さらに深圳で行われた座談会では、広東、浙江など東南沿海部の大規模経済省の官僚を集めて、経済の安定や企業保護、雇用の安定などについて意見交換をしていた。この座談会の様子は当日のCCTV(中国中央電視台)の定時ニュース番組「新聞聯播」で4番目の扱いではあったが、李克強の表情や顔色がすこぶるよく、自信に満ちているようだと話題になっていた。

多くの中国人の受け止めかたとしては、鄧小平の改革開放の成果の1つである経済特区の深圳で経済問題に関する座談会を李克強が議長となって開催したことは、党は今後も改革開放を継続するのだというシグナルではないか、というものだった。

習近平がこれまで推進していた経済政策は改革開放逆行路線とみなされていた。おそらくは、習近平の経済政策の方向、改革開放逆行路線について党内で批判があり、習近平が妥協を迫られたのではないか。

習近平が持ち出した「昔の講和」

そう考えるもう1つの根拠が、同じ8月16日、共産党理論誌「求是」の巻頭に、習近平が「全党は完璧に、正確に全面的に、新発展理念を必ず貫徹しなければならない」と呼び掛ける特集記事が掲載されていたことだった。

この記事は実は昨年(2021年)1月28日に行われた政治局集団学習会の習近平の講話を基にしたものだが、これまで公開はされていなかった。講話から1年8カ月後、なぜ北戴河会議が終わったタイミングで「求是」で発表されたのか、ということについて、1つの推測として、北戴河会議で習近平がいろいろ批判されたことに対する反論として、この昔の講話を持ち出したのではないか、という見方が出ている。

習近平政権が「新発展理念」を最初に提示したのは、2015年10月の五中全会。昨年の六中全会で打ち出した「新時代」と同じく、鄧小平の改革開放に代わる概念として打ち出したものだと考えられている。

この記事は、「全党」に「必須(必ずしなければならない)」という高圧的な表現で習近平が訴えている形でまとめられ、それは党内に習近平の話に耳を貸さない者がいる、というニュアンスが滲んでいる。また、「完璧に、正確に、全面的に貫徹せねばならない」と言ったのに下部組織がその指示に従わないから失敗したのだと言い訳している、というふうにも読める、というわけだ。

ニューヨーク在住の華人評論家、陳破空は「実際、習近平が肝煎りで打ち出してきた経済政策の中国製造2025、雄安新区、一帯一路などは暗礁に乗り上げている。長老たちに批判されたんじゃないか」とみる。

また「共同富裕」について、「共同富裕は1つの長期的任務であり、現実的任務であり、急いでもならないし待っていてもだめで、さらに重要な位置に置かねばならない」といった表現があった。これは、現実的に「共同富裕」がうまくいっておらず、その失敗についてやはり党内で問題視されていることへの習近平のエクスキューズではないか、という。

さらに「政治」が強調されている。「我ら党の発展に関する政治的立場、価値の方向性、発展モデル、発展ルートはすべて、重大な政治問題である」。北戴河会議で長老たちが経済の失敗をせめたてられたとき、習近平としては「経済よりも政治が大事」と反論したかったのではないか、という。この場合、習近平の言う「政治」とは、自らの専制政治のことだ。

コロナ政策が失敗だったと認めた地方政府

北戴河会議が習近平に不利に動いた可能性は、北戴河会議と並行して起きたいくつかの事件からもうかがえるという。

たとえば、海南省では新型コロナによるロックダウンと、それに対する官僚および視察に行った孫春蘭副首相の態度だ。

海南省は8月6日、突然、三亜市のロックダウンを発表し、当時島内にいた15万人の観光客が足止めされるという事態を引き起こした。ホテルに半額で滞在できるようにするなど、政府としてもさまざまに対応したが、7日間、完全に隔離されたのち5度のPCR検査陰性の結果をもって離島できる、といったルールに観光客らの不満は爆発し、大騒ぎとなった。

PCR検査で陽性となった観光客は、バスで5時間移動させられ、郊外の施設で隔離された。バスの中で観光客がトイレに行きたいと訴えると、桶を1つ渡され、そこで用を足せといわれた、という話もネットで流れた。

海南省当局は8月12日、「3日間の社会面清零(ゼロコロナ隔離政策)に失敗した」と認め、海南省旅游文化ラジオスポーツ庁の汪黎明副庁長は、「帰宅手配の進捗状況は、観光客の皆さんの期待に応えられなかった」と謝罪した。

コロナ問題担当の孫春蘭副首相は8月13日に海南省の現場に訪れて状況を視察し、一刻も早い感染撲滅を指示したが、「ゼロコロナ」という言葉を使わなかった。

地方政府が公式にコロナ政策を失敗であったと認めるのも珍しいし、孫春蘭がゼロコロナ政策について全く口にしなかったのも珍しい。このことから、北戴河会議でゼロコロナ政策への批判が起き、習近平自身がゼロコロナ政策の失敗を認めざるを得ない状況があったのではないか、という推測も出ている。

「一帯一路」失敗の責任を追及された?

さらに気になる出来事は、東南アジア華僑のボスとして君臨していた佘智江が8月10日、違法越境賭博経営容疑でタイのバンコクで逮捕された事件だ。

佘智江は習近平が2018年にフィリピンを訪問した時、当時のドゥテルテ大統領の招待を受けて晩さん会に出席。習近平とも親しげにしていた様子が報じられている。

しかし、違法な賭博インターネットプラットフォームを通じて1.5億人民元の収入を得ていたとして、国際刑事警察機構から国際指名手配を受けていた。佘智江が有名になったのは、2017年に150億ドルをミャンマー・タイ国境における一帯一路プロジェクトの「アジア太平洋ニュータウン」に投資した件だった。だが、ミャンマー政府はこのプロジェクト自体が違法賭博と関連があるとして調査を進めていた。

佘智江は、習近平との関係が噂される一方で、習近平の政敵である元政法委員会書記の孟建柱らとの関係も深いと言われ、彼の逮捕自体が、秋の党大会前の権力闘争において習近平に有利に働くのか不利に働くのかは意見が分かれるところだ。

ただ、1つ言えるのは、ミャンマー・タイ経済回廊と呼ばれた一帯一路の重要プロジェクトの失敗がこれで決定的になるとみられていることだ。習近平の肝煎り政策の一帯一路の評判が、さらに地に落ちたことになる。おそらく北戴河会議でも一帯一路の失敗について、習近平の責任が追及されたのではないだろうか。