東アジア歴史文化研究会のブログ

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渡辺惣樹『トランプの理性を破壊したのは誰か』(徳間書店)  モサドに唆されイランに介入。致命的なトランプの戦略ミス なぜ彼は理性を失ってイスラエルに味方したのか?

東アジア歴史文化研究会

理性を欠いた発言を連発するトランプ大統領は「イランを石器時代に戻す」、「やつらの文明を破壊する」という暴言を吐いた。


まるでローマ帝国の政治家カトウが「カルタゴは滅ぼさなければいけない」といって、三回に亘ってポエニ戦争を繰り広げ、ついにカルタゴを殲滅したような意図を含むのか。ひとり残らず殺戮し、跡地には塩を撒いた。トランプは現代のカトウか?

トランプの再登場は保守の人びとに高い期待を抱かせた。就任一年でトランプが実施した政策はめざましいものがあった。二年目から可笑しな方向へ傾いた。期待が高ければ失望は深い。トランプは多くの支持を失った。


本書はイラン、ベネズエラ、ウクナイナ、ロシアを俎上に、混迷をきわめる世界情勢の基本の変化には、(1)米露蜜月(2)米欧対立(3)米国外交を歪めたイスラエルという三つのファクターがある、とする。


読みながら評者(宮崎)がしきりに考えていたのはジョン・ミアシャイマー教授のイラン戦争分析のことだった。渡辺氏の分析と共通点がかなりある。


ミアシャイマーは明確に言い切った。

「アメリカは敗北している」、「窮地に陥ったイスラエルは核兵器を使う可能性がある」、「泥沼から抜け出すにはトランプが敗北をみとめることだ」


イスラエルロビィの研究で知られる教授は「それにしてもここまでアメリカの方向を転換させる力がユダヤロビィにあるとは!」と驚嘆の声を上げる。


なぜアメリか負けているのか?

ミアシャイマーがあげるのは(1)ホルムズ海峡封鎖でイランが世界経済の生殺与奪のパワーを持った。(2)肥料が運ばれなければ世界は飢餓に直面する。半年先にそれが出現する。(3)沿岸諸国は海水淡化プラントを攻撃破壊されると生きていけなくなる。(4)ハマス、ヒズボラ、フーシ派はイランと連動して軍事行動をまだまだ続行できる。


アメリカは、しかし戦略なくイスラエルに騙されて戦争に加担した。


挙げ句にミサイルを使い果たし、北東アジアを守る海兵隊を沖縄から、THAADを韓国から移動させ、台湾を守る兵器システムの納期が遅れている。北京と呼応する台湾国民党は米国の兵器購入予算に反対している。


これでは中国包囲網はぼろぼろとなって、トランプが威勢良く掲げた、あの戦略的中国封じ込めどうなってしまったのか。アメリカが疲弊すれば、漁夫の利をえるのは中国ではないか。


この点こそ、日本が一番懸念すべきことである。


トランプ政権のなかに反対意見や多様なオプションを建言する閣僚は不在で、反対しした将軍は解雇され、強行派で飛び跳ねるのがヘグセス国防長官とヴァンス副大統領だ。イスラエルを無条件に支持し、アメリカの国益ではなくイスラエルの国益を追求するのはイスラエルロビィ、その資金力、メディア支配、議会工作である。


秘密ではなく公然たるイスラエルの代理人はリンゼー・グラハム上院議員。そしてルーズベルト政権がそうだったようにトランプ政権のなかにイスラエルのスパイがいる。すっかり騙されたトランプは理性を失った。


ところが本来トランプを批判するはずの、リベラルの民主党はガザの虐殺に沈黙した。民主党も左翼メディアも同罪である。


イスラエルの戦略とは(1)大イスラエル建設のための領土拡張<ゴラン高原、シリア南部、ガザ>(2)占領地の民族浄化(3)近隣諸国の弱体化。米国よりのサウジ、エジプト、ヨルダン、UAEは攻撃されても反撃できず弱体化した。イスラエルの拡大を脅威視し、別の発言を繰り返すのはトルコである。


モサドはイランを攻撃すれば民衆が立ち上がり、レジュームチェンジが起きるといったが、イランの民衆蜂起はなかった。


むしろ湾岸諸国に配備した米軍基地は破壊され使い物にならず、米海軍はイランのミサイル射程外の遠方から作戦を展開している。


消耗戦に突入してしまった以上、泥沼は長引くだろう。地上部隊投入などは愚かな作戦でしかない。


米国にとってイスラエルはもはや厄介な重荷となったのである。


ならばトランプを騙し理性を失わせたのはイスラエルということになる。政局のタイミングから邪推すればエプスタイン機密文書の暴露と重なるが、エプスタインはモサドのエージェントだった。


トランプを急激に傾かせたのはトランプ暗殺未遂事件ではないかと渡辺氏は言う。


『ネタニヤフ首相は度重なるワイントン訪問で、トランプの命を狙ったのはイランであると、法螺話を繰り返した』(188p)


イランと戦争を始めたことでトランプの人気は突然陰った。ニュージャージー州知事選、各地の補選でトランプ共和党は連戦連敗、地元のフロリダ州でも負けた。このままいけば中間選挙でトランプ勝利は難しい。以後はレイムダックに這入る。


中国は高らかに嗤うだろう。


さて本書では触れていないが、イランのレジリアンスである。


あれほどのミサイルを注がれ、指導者が一斉に消されたのに、イランの上層部政策決定機関はシステムとして機能している。まだまだ隠し持っているミサイルとドローンがあり、軍事的な脅威は縮小されたとはいえ、警戒が続く。


革命防衛隊の軍事力には侮れない潜在力が維持されている。しかも徹底的な抗戦をつづけると獅子吼しているのである。