中国・習近平政権、崩壊の危機…国内の反発抑制のため日本領海侵犯を連発(渡邉哲也「よくわかる経済のしくみ」)

2016.09.13
本連載前回記事で、中国の苦しい現状とイギリスやドイツの“中国離れ”について論じたが、今回は別の角度から中国の現状を見ていきたい。
ドイツ経済といえば、2015年にフォルクスワーゲン(VW)がディーゼルエンジンの排出ガス規制に関して不正を行っていたことが発覚、VWはアメリカ当局に約1兆600億円の賠償金を支払うことで合意している。今後、ほかの国に対しても巨額の支払いが課される可能性があるVWだが、そのメインバンクがドイツ銀行だ。
ドイツ銀行は、VWの不正発覚後に約1兆円の融資を行っているが、将来的に融資が焦げついたり、さらなる金融支援が必要になったりする可能性がある。そして、その時の対応次第ではVWとドイツ銀行が連鎖破綻に陥る危機すら予想されている。また、VWは積極的に中国展開を進めており、15年の世界販売台数の約3分の1を中国に依存している。つまり、中国経済の悪化はドイツにとって切実な問題なのだ。
そして、そこで問題になるのが「ユーロダラー」だ。これは、アメリカ以外の銀行に預けられた米ドル預金のことで、主にヨーロッパの銀行が市場である。ドル建て債券やドル融資も含まれるが、ユーロダラー取引の拠点はイギリスのシティであり、ドルの為替取引全体の約4割(ウォール・ストリートの2倍)を占めているとされる。
シティといえば世界的に有名な金融センターだが、それはなぜだろうか。実は、時差を考えた時にイギリスは有利な場所にある。為替取引において、午前中はアジアとヨーロッパのマーケットにアクセスでき、午後になればアメリカのマーケットが開く。つまり世界の為替市場に常時アクセス可能なため、取引に最も適しているのだ。
そして、国際化に向けて急拡大する人民元の取引の拠点になることを狙い、さらには中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)の後見人的な役割を担っていたのがシティおよびイギリスだった。しかし、前回記事で述べたように、イギリスはEU(ヨーロッパ連合)離脱に伴って政権交代が行われ、対中戦略の転換点を迎えている。こうして見ると、あらゆる面で中国および人民元の後ろ盾が失われていく可能性が高いわけだ。
習近平の「次が見えない」中国のジレンマ
そうした外的要因に加え、中国国内では習近平国家主席自身が八方ふさがりの状況に陥っている。中国は南シナ海における領有権問題について、常設仲裁裁判所の判決を無視している上、東シナ海の尖閣諸島に大量の船舶を航行させて日本の領海に侵入を繰り返している。
ここまで強硬な姿勢を貫くのはなぜかというと、そこで習主席が「一歩引く」という姿勢を見せれば、たちまち求心力を失うことになり、習政権の崩壊につながるからだ。習主席は中国人民解放軍の「軍区」を7つから5つに再編すると同時に「戦区」と改称するなど軍改革を行ったが、この改革も軍に対する強い指導力がなければできないわけで、その後、軍の掌握はなかなか進んでいないのが実情だ。
どの国でもそうだが、軍隊をまとめる時に必要なのは外敵の存在である。軍隊というのは敵がいれば強くなるが、敵がいなければ目的がないため締まらない。そういう視点で見た時、中国が南シナ海や尖閣諸島の問題から手を引けば、軍の士気が低下する上、習主席に対する忠誠心も失われる恐れがある。
本連載の中で繰り返し述べているように、中国は政治的に国際社会の中で孤立しており、経済政策もどん詰まりの現状がある。そんな中で軍の統率も取れなくなる事態になれば、それはそのまま習政権の瓦解に結びつく。
そして、その時の最大の問題は「次が見えない」ということだ。中国共産党は集団指導体制をうたってはいるが、習主席は「虎狩り」と称して大々的な反腐敗キャンペーンを行った。党内の汚職などを一掃するというものだが、これによって習主席は敵対勢力を徹底的に潰し、その反動で大きな恨みを買っている状態でもある。党内に反発を生むと同時に、有力者を潰すことで「次の芽」を摘んでしまっている。
これを、中国で繰り返されてきた国内の権力闘争の歴史の一部と見ることもできるが、これまでより格段に規模が大きく、中国の内外を取り巻く環境が変化していることを失念しているものだと思う。すでに右肩上がりの経済は期待できず、自由化により海外との関係も深まっている。「虎狩り」は、海外とつながる人材を奪ってもいるわけで、政策的混迷の原因にもなる。
プーチン頼みのロシアを待つ厳しい現実
これは、ロシアにおいても同じだ。ロシアは「大帝」とも呼ばれるウラジーミル・プーチン大統領による独裁的な政治体制が敷かれており、あらゆる面で“プーチン頼み”なのが現状だ。
ロシアという国は「共産主義に失敗し、民主主義に失敗し、そして“帝政”に戻った」ともいわれている。プーチン大統領は2000~08年まで大統領を務めた後、首相に就任し、12年から大統領に復帰している。首相時代も含めれば15年以上も国のトップに立っているわけだが、裏を返せば、次代のトップが育っていないのである。
今、世界にはかつての冷戦を彷彿とさせるような西側と東側の対立が生まれているが、仮にプーチン体制が崩壊した場合、その対立構造のバランスが大きく崩れることになる上、ロシア国内が混乱に陥ることは想像に難くない。
現在、ウクライナ情勢をめぐって欧米から経済制裁を受けているロシアでは、首都・モスクワのスーパーマーケットからバターやチーズなどの輸入品が消えつつある。また、地方に行くと、旧ソビエト連邦時代に戻ったかのように、物を買うのに2時間並ばなければいけないという状況も生まれている。
これらは、経済制裁によって外貨が手に入らなくなり、海外品が流通しなくなってしまったからだ。そういう状況の中でプーチン大統領という指導者が失われたら、いったいどうなるのだろうか。
このように、中国およびロシア、つまり東側の国にとっての状況は非常に厳しいものになっており、それゆえ対抗軸である欧米の動きが注視されているのである。
(文=渡邉哲也/経済評論家)
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