中国が逆立ちしても追いつけないのが「パランティア」 セキュリティの脆弱性、官僚主義による断片化、国家と企業間の信頼関係の低さ(宮崎正弘国際情勢)
日本でパランティアの話題が大きくなったのは、アンソロピック、オープンAI、グーグルが連続して、AIモデルが自律的な暴走をはじめ、指示していないのに他社のシステムに侵入した実例が頻発して以後である。
AI規制が声高にいわれ、AI脅威論から、はては「人類滅亡』説まで。しかしトランプ大統領は「AI規制はナンセンス。AI危機は左翼のデマ」と軽く一蹴している。アンソロピックCEOのダリオ・アモディが「人類の危機」といっているのは付帯条件があり「もし悪用されれば」(とうに悪用が始まっているが)
さて、米国のAI優位を脅かす中国は次々と米国AIモデルを猛追し、同等の類似品をつくって安値で売り出し、まさに日替わりメニューのように、あるいは産地直送生鮮食品のようにAI市場を席巻しているが、例外中の例外、中国が逆立ちしても追いつけないのが「中国版パランティア」である。
中国が統合本部的な整合的司令塔をつくれない最大の障害は、中国における信頼の欠如である。
低い信頼性と脆弱なデータセキュリティが障害となっている。
パランティアのごとき類似システムの構築は、情報当局が機密データや業務プロセスへの極めて広範なアクセスを許可するかどうかにかかっており、パランティアは米国の情報世界において20年以上かけて信頼を築き上げてきた。
パランティアはCIAが設立したのだという人がいるが、逆である。パランティアがCIAに数年かよって、いったいどんなシステムをかれらが望んでいるかを研究し、開発してきたのだ。
ベネズエラ、ウクライナ、イランとの戦闘で多大な成果を確認した中国は、『中国版パランティア』をつくろうとするのは当然であろう。
中国政府とテクノロジーセクターとの緊密な関係も築かれてきたものの、データセキュリティの脆弱性、官僚主義によるデータ断片化、そして国家と企業間の信頼関係の低さといった問題が横たわる、政府機関間、企業間で、米国レベルのアクセスを確保するに必要な信頼を得ることができない。
どの機関であれ、企業であれ、自己のデータに関して他者の使用には慎重になる。
中国の学者たちは、データ盗難や悪用に対する保護対策が不十分であることを指摘しており、そのため企業は信頼できるパートナーとの情報共有さえ躊躇している。極めて機密性の高い政府機関や人民解放軍のシステムでさえ、データ盗難や漏洩による損害を防ぐことができていない。
官僚主義のセクト主義と自己利権の保護を重視する中国では、建前とは裏腹に実態は機密性の高い国家安全保障データさえも保護できていない。民間企業にさらに多くの情報を集中させることはリスクである。
中国企業は、データ統合プラットフォーム、オントロジー、ナレッジグラフ、軍事AIツールなど、米パランティアの機能に類似した製品やサービスを開発してきた。しかし、機密性の高い政府、軍事、商業システム全体にわたって機能する単一の国家的リーダーは不在である。
▼「信頼」があまりに低い
「中国版パランティア」が実現出来ないのは信頼度の低い環境である。
サイバーセキュリティのリスク、官僚間の対立、データに関する政治的な敏感さなどが、複数の機関にまたがるアクセス権限を、単一の企業に委ねることを阻んでいる。
中国のテクノクラートエリートは青写真をもってはいるが、パランティアに匹敵する企業が存在しない。「企業」とは名ばかりで実態は国有企業もしくは党営業組織を意味するが、非公開活動はつねに「民間企業」を装う。
官僚機構は縦割りである。未解決のサイバーセキュリティリスク、そしてデータと政治権力の間の緊張関係など、中国の信頼度の低さは、パランティアが米国で獲得したような広範なアクセス能力を整合できる組織が成立し、データが蓄積することを窮極的に阻んでいる。
パランティアの中核を成すのは、大規模組織が様々なシステムに分散した情報を整理し、理解するのに役立つソフトウェアを提供することだ。政府機関、軍事司令部、多国籍企業は膨大な量のデータを保有しているが、異なる目的で様々なソースから構築されたデータベースに格納されており、相互に容易に連携できない。
中国のソフトウェア業界には、パランティアのような革新的な企業が数多く存在することは事実で、その存在は、中国がパランティア類似企業を構築する基盤技術を保持している事実を意味する。
しかし機密性の高い政府、軍事、商業システムへのアクセス権を蓄積できる国家的なリーダーが存在しておらず、問題は技術的というよりも制度的なものである。
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